居合愛好家と文化財としての刀

刀剣を趣味とされる方は以前と比べると相当減っているのではないかと思います。それでも、刀剣を購入する方の中で、居合の稽古用に刀を求める方は多くいらっしゃる事でしょう。
居合刀は初級者の場合は模造刀を用いて練習を行いますが、上級者は真剣を使います。
その拵についても、真剣の場合は、自身の体格等に合わせて全てを新調し、刀身から拵までを現代製のものや、鍔・頭・縁・目貫等は古い時代のものを使った拵を作る場合、また、刀身や外装も時代のものをそのままで使用する人もいるでしょう。

居合の稽古用となれば拵え付であることが条件の一つですが、最近の刀の販売では殆どの刀は拵えが付いています。また、そうでなければ売れないと云う事情もあるのです。
拵えもピンからキリまでありますが、居合の稽古用でも良い拵えが欲しいと思うのが人情でしょう。
反面、昔から伝えられてきた物には、そのもが持つ文化財的としての価値の高い物がある訳で、大切に保存し、後世に伝える事も大事です。

ある方が言っていました。居合刀の拵え製作を依頼するのに、金象嵌の入った良い鍔を持参し、これを入れて作ってくださいと言ったところ、「居合をする人は、その良い鍔を居合拵えに使って、稽古で鍔をダメにしてしまうから、俺は拵えは作らない」と職人に言われたと話してくれました。
実際に、縁・頭・目貫から鍔・鐺まで在銘の一作物の、刀身ともに製作当時のままのものですが、居合の稽古用にと求める方にはお断りをしていたものがありましたが、仲々良い人と巡り合うことがないので、ついには、居合の稽古用にと求める方に譲りました。
あの拵えも何れ稽古でダメにされてしまうのか思うと何とも言えぬ寂しさがあります。
また、刀身重量を気にして、やたら刀に樋を掻くことも往々にあります。居合を為さる方は、刀身や刀装具を文化財としての価値の認識が希薄ではないかとさえ思ってしまいます。
居合の稽古向きの刀や拵えはありますから、もう少し意識を変えて頂き、文化財を大切にする心を持って頂けたらと思ってます。